ミルシートとは?【疑問を完全解説】サルでもわかるミルシート「5分講義」
ミルシートって何?
ミルシートの見方,材料証明書との違い,化学成分などについても知りたい。
了解!
ミルシートについて,溶接歴25年の現役溶接工が,サルでもわかるように丁寧に解説します。
本記事の内容は以下の通り
・ミルシートとは何かわかる。
・ミルシートに関する疑問を完全解説【サルでもわかる】
この記事を書いている俺は「溶接歴25年」の熟練溶接工。
保有資格はJIS溶接技能者(TN-P,T-1P,N-2P,C-2P),溶接管理技術者2級,管施工管理技士1級。
要するにベテラン溶接工で溶接の専門家。
数々の溶接経験からミルシートを読み込むことが多く,初心者の頃に感じた疑問を記事にまとめた。
この記事はミルシートに関する疑問を完全解説しており,必ず疑問は解決すると自負している。
- ミルシートとは?【配管・鋼板・鉄筋・鉄骨など】
- ミルシートと材料証明書との違い【鋼材か鋼材以外か】
- ミルシートには何が記載されているのか?
- ミルシートの見方【チェックポイントは4つ】
- ミルシートの化学成分【×100,鋼の5元素とは】
- ミルシートの英語の意味【和製英語】
- ミルシートは誰にもらう?費用は?
- ミルシートが必要な理由とは?
- ミルシートとSDSとの違い【全く違う】
- ミルシートは規定の書式がない!【統一するべき】
- ミルシートと実際使う材料の管理方法【5つある】
- ミルシートの有効期限は?
- ミルシートは再発行可能?
- ミルシートがないと言われた場合の対処法
- ミルシートの信頼性【不正は致命的】
- ミルシートとは?【疑問を完全解説】サルでもわかるミルシート講義:まとめ
ミルシートとは?【配管・鋼板・鉄筋・鉄骨など】
ミルシート・・・「鋼材検査証明書」
ミルシートは「鋼材分野」における「材料証明書」のこと。
鋼材以外の材料分野(材木,化学薬品,ゴム製品など)では,ミルシートとは言わず「材料証明書」と言われる。※ミルシートの意味が分かってない人は,なんでもかんでもミルシートちょうだいって言う…。
ミルシートには,鋼材がもつ機械的性質や化学成分,規格値,製造実績値などが記載されている。
ミルシートは鋼材の品質を保証する唯一の書類だよ!
ミルシートと材料証明書との違い【鋼材か鋼材以外か】
ミルシートと材料証明書との違いは「鋼材か鋼材以外か」で分類される。
なんかホストのカリスマROLAND(俺か俺以外か)みたいになってしまったが…,
鋼材・・・ミルシート
鋼材以外(材木,化学薬品,ゴム製品など)・・・材料証明書
ただややこしいのは,ミルシートも材料証明書という場合もあるし,材料証明書をミルシートと言う場合もあること。
正しい言葉の使い方は,鋼材=「ミルシート」で鋼材以外=「材料証明書」なのだが,現場のオッチャンや顧客はそこまで深く考えず発言する場合も多い。
ミルシートと材料証明書は「広い意味で同じ」と考える人もいるため、「ミルシートor材料証明書」を要求する相手の人がどのような書類が必要なのかきちんと話し合う必要がある。
ミルシートと材料証明書の違いは…
「鋼材か鋼材以外か」の違い!
ミルシートには何が記載されているのか?
ミルシートの記載内容は「配管,鋼板,鉄筋,鉄骨など」鋼材によって違う。
基本的な項目としては,
- 化学成分(鋼の5元素といわれるC、Si、Mn、P、Sのほか添加されている元素の情報)
- 引張強さ、耐力(もしくは降伏点)、伸び、硬度などの機械的性質
- 寸法、サイズ
- 質量
- 証明書の発行主体(メーカー名、製作所名)
- 製造番号や証明書番号など管理番号
- 適用規格
- 品質保証者のサイン
- 検査方法
- 製品名
- 材質
- 発行日
- 数量
などが基本的にはミルシートに記載されている。
鋼材の戸籍やカルテみたいなものだと思えばいいよ!
ミルシートの見方【チェックポイントは4つ】
ミルシートの記載は項目は全て重要←これ重要。
無駄な情報がない完璧な紙なのだが,パッと見て理解できるほど俺の頭は良くない。
溶接工という仕事柄現場でミルシートを確認する場合がほとんど。
その際のミルシートの見方【チェックポイント4つ】を紹介したい。
- 材料規格
- 検査規格
- 検査結果
- 化学成分
の4つは最低でも必ずチェックする。
深堀すると,
材料規格について
材料規格のチェックポイントとしては,上記のミルシートで言えば「JIS」の確認と「TP-S」の確認。
間違いなく発注した材料かどうかを確認する。
検査規格について
検査規格が「JIS」なのかどうか確認する。
B2312に関する知識はなくていい。←後でJISで確認するのは必要。
あくまで現場レベルは「JIS」での検査規格かどうかを確認する。
検査結果について
どんな検査であれ合格していることが大事。
ミルシートが出てくるぐらいだから普通は「合格」とか「Good」と記載されている。
検査結果が記載されているか確認する。
化学成分について
溶接する上で障害になるのは,「S」=硫黄と「P」=リン。
「S」=硫黄と「P」=リンは少なければ少ないほどいい。
「S」=硫黄と「P」=リンは溶接欠陥につながる成分なので規定値内に入っているかどうかを確認する。
現場でミルシートをもらったら,すぐに上記の4項目は確認しよう!
ミルシートの化学成分【×100,鋼の5元素とは】
ミルシートには化学成分(鋼の5元素のほか添加されている元素の情報)が記載されている。
鋼の5元素とは?
炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)の5つが5元素。
鉄鋼材料の多くは成分値についても規格で上限や下限の値がそれぞれの元素ごとに定められている。
炭素(C)・・・強度、硬さは主にこの炭素量で決まる。
ケイ素(Si)・・・降伏点(耐力)と引張強さの二大指標に影響する。
マンガン(Mn)・・・ねばり強さの指標である靭性(じんせい)に影響する。
リン(P)・・・「低温脆性」に寄与する有害元素の一つ。
硫黄(S)・・・多ければ多いほど溶接性が悪い。
ミルシートを見るときにこの5元素+添加元素が規定値に入っているか確認する。
ミルシートの見方【化学成分×100とは?】
化学成分欄にある×100とは,上記のミルシートの硫黄(S)で言えば,×1000となっているのでMax上限値「30」が規定値。
なので30÷1000=0.03%以下。
実際材料に含有しているのが「2」なので2÷1000=0.002%となり規定を満たしているとなる。
溶接する上で障害になるのは,「S」=硫黄と「P」=リン。
「S」=硫黄と「P」=リンは少なければ少ないほどいい。
ミルシートの英語の意味【和製英語】
実は「ミルシート」というのは和製英語。
工場や製作所(mill)が発行する書類(sheet)という意味からミルシート(mill sheet)と日本では呼ばれている。
英語ではミルシート(mill sheet)は通用しない。
英語では,
Mill Test Report=ミル・テストリポート
Mill Test Certificate=ミル・テスト・サティフィケイト
inspection certificate=インスペクション・サティフィケイト
と表現する。
日本のミルシートの記載もほとんど英語なので覚えておくといいかも。
ミルシートは誰にもらう?費用は?
ミルシートは誰にもらう?
ミルシートは鉄鋼メーカーが発行する。
鉄鋼メーカーは卸し業者に発行し,卸し業者はユーザーに提出する。
要するに材料を発注した業者に言えばいい。
今,注文した溶接棒と配管はミルシートちょうだい!
俺はいつもこんな感じでミルシートを要求している。
ミルシートの費用は?
ミルシートは基本的に無料。
1枚500円で!とか言う業者とはすぐに手を切った方がいいだろう…。
鉄鋼メーカーからは無料で仕入れてるはずなので。
ぼったくりに注意!
ミルシートが必要な理由とは?
結論から言えば「鋼材が指定の材で間違いないこと」を証明するためにミルシートは必要。
この建物はこの鋼材で建設されています!という証明。
特に
・橋
・ビル,商業施設
・発電所
・道路
などインフラにかかわる施設は必ずミルシートが必須になる。
建設工事は実際の作業が始まるかなり前から動き出している。
材料検査は建設前に!
ミルシートとSDSとの違い【全く違う】
ミルシートとSDSは全くの別物。
イヌとネコ,牛と馬,車と自転車ぐらい違う。
ミルシート・・・「鋼材検査証明書」
SDS・・・「安全データシート」
安全データシート(あんぜんデータシート、英: Safety Data Sheet、略称 SDS)とは、有害性のおそれがある化学物質を含む製品を他の事業者に譲渡または、提供する際に、対象化学物質等の性状や取り扱いに関する情報を提供するための文書。
ご年配は混同している人も多い。
昔は「SDS」のことを「MSDS」と言っており混同に拍車をかけている笑
実は俺も…。
そうですアホです。
ミルシートは規定の書式がない!【統一するべき】
ミルシートは発行する鉄鋼メーカーによって書式がバラバラ。
書いてあることはほぼ一緒なんだけど,書式がバラバラなので読みづらい。
ミルシートの管理も鉄鋼メーカーごとに分けなければならず面倒。
JISでもなんでもいいがミルシートの書式を統一し現場の仕事を減らすべき。
ミルシートと実際使う材料の管理方法【5つある】
ミルシートをもらったら管理が必要(ミルシートと材料の照合)
工場ではいろんな鋼材を使用しており,混ざってしまう可能性がある。
俺の会社が行っている管理方法は,
- 材料に刻印する
- 材料にマーカーなどで色をつける
- 材料使用記録をつける
- 材料置き場の整理整頓
- ミルシートは鉄鋼メーカーごとにファイリングする
など。
品質管理がいい工場は品物もいい。
面倒だが一度決まりを作ればあとは楽なので結局は効率がいい。
間違いもなくなる。
ミルシートをもらって満足はダメ!
ミルシートの有効期限は?
ミルシートに有効期限はない。
例えば2008年の鋼材を2020年に使うことになった場合,ミルシートと材料が照合できれば全く問題なく使用することができる。※屋外でサビ・腐食が著しく進行していた場合は使用できないが…。
ただ顧客の精神的観点から考えれば,年数が経っている鋼材はできれば避けたいところ。
ミルシートを取得した鋼材に関しては「使い切り」と言う考えの方がトラブルは少ない。
ミルシートは再発行可能?
結論から言えば再発行は可能。
鉄鋼メーカーは少なくても数年間(鉄鋼メーカーによって違う)はミルシートを保存しており,再発行の依頼があれば応じてくれる。
しかしながら,「ミルシートを失くす」という行為自体が品質管理がなってないとも言えるので極力「再発行」は避けたい。
・濡れてしまった
・コピーを取り忘れた
などの場合もあるので「再発行」できることは覚えておくといい。
ミルシートに落書きして怒鳴られたことあるのは内緒…。
ミルシートがないと言われた場合の対処法
ミルシートが「ない」ってことは「基本的にない」のだが,それでも「ない」と言う業者の場合は,2つのことが考えられる。
- 無規格品で実際ミルシートがない場合
- 業者がめんどくさがっている場合
の2通り。
無規格品で実際ミルシートがない場合の対処法
対処法は2通りある。
- JIS規格はないかもしれないけど「社内or製造規格」ならあるでしょ?といって製品情報を仕入れる方法。
- 無規格品から規格品へ変更する方法
の2通り。
無規格品を使用する構造物は重要度が低い箇所が多いためミルシートを作っていない製造メーカーもあるかもしれない。※きっとないけど…。
そんな時は上記の対処法を検討して欲しい。
業者がめんどくさがっている場合の対処法
そんな時はあっさりその業者とは縁を切りましょう。
めんどくさがる業者はミルシートに限らず,仕事がいい加減なことが多い。
めんどくさがってるな…と感じたら「さようなら」がベスト。
信頼って大事。
ミルシートの信頼性【不正は致命的】
ミルシートは鉄鋼メーカーが発行するもの。
その発行元が不正しデータを改ざんしていたら…。
全ての前提条件が狂ってくる。
この建物はこの鋼材で建てました!とか溶接棒はコレです!とか言えなくなるのだから。
ミルシートに関する不正が実際過去にあったので紹介しておこう。
神戸製鋼所が2017年10月に発覚した事件で「アルミ製品データ改ざん事件」として有名。
2017年10月8日、アルミニウム、銅、鉄粉などに関し性能データの改竄や顧客に了解を得ない特採が常態化していたことが発覚した。製品は航空機、自動車、鉄道などで幅広く使用されており、三菱重工業、川崎重工業、IHI、SUBARUなどでデータが改竄された素材を使用した製品が販売されていたことが判明した。
影響は海外の取引先にも及び、2017年10月17日の世界鉄鋼協会年次総会でも話題となった。世界鉄鋼協会会長の進藤孝生は「データ改ざんが起きた原因や影響の分析が必要だ」とした。Wikipediaより引用
2019/3/13に立川地方裁判所で罰金1億円の判決
ミルシートは鉄鋼メーカーの信頼あってのもの。
鉄鋼メーカーの指定が顧客からある日もそう遠くないかもしれない。
ミルシートとは?【疑問を完全解説】サルでもわかるミルシート講義:まとめ
ミルシート=「鋼材検査証明書」
ミルシートと材料検査証明書の違い=「鋼材か鋼材以外か」
などのミルシート講義はどうだっただろうか?
初心者が感じる疑問には全て答えたつもりだが,至らない点があればコメント欄にでも書き込んでほしい。
ブログ10万PV/月達成!
ド底辺の溶接工が必ず役立つ【溶接,Mac,お金の情報】をブログで発信中!
【渾身】の記事をしゃーなしで見てみる!
今度三級鉄筋施工を受けるものです。
筆記試験の問題に日本工業規格(JIS)規格品の異形鉄筋におけるミルシートとは、メーカーからの納品書のことである。と書かれていて正しい回答は×なのですが、どこが違うのかがわかりません。個人的には納品書が違うのかなと思うのですが、どこが違うのか教えていただけたら幸いです。
コメントありがとうございます!
ミルシートとは,「納品書」ではなく,「鋼材検査証明書」のことです。
ミルシートのことを納品書と言うことはありません。
大変わかりやすい解説までありがとうございました!
試験勉強頑張りたいと思います。