現役溶接工目線で【スラグ巻き込みの原因と対策】を解説【技量が原因】
スラグ巻き込みって,検査屋さんに言われました…。
スラグ巻き込みの原因と対策を教えて欲しい。
スラグ巻き込みは,溶接初心者に多く見られる欠陥だね。
現役溶接工が,どうやってスラグ巻き込みを防いでいるか「原因と対策」を紹介するね!
本記事の内容は以下の通り
- 溶接スラグとは何か?役割は?
- スラグ巻き込みとは?
- スラグ巻き込みの原因と対策
- Tig溶接でもスラグは発生する
- スラグ巻き込みした材料を曲げ試験すると…
この記事を書いている俺は「溶接歴25年」の熟練溶接工。
保有資格はJIS溶接技能者(TN-P,T-1P,N-2P,C-2P),溶接管理技術者2級,管施工管理技士1級。
要するにベテラン溶接工で溶接の専門家。
本記事は,スラグ巻き込みについて現役溶接工の立場から原因と対策をまとめた記事。
※「溶接が上手くいかない…」と悩んでいる溶接初心者は,「スラグ巻き込み」が原因かもしれない。
溶接スラグとは何か?役割は?
溶接スラグとは?
JIS用語で「溶接部に生じる非金属物質」と定義されている。
わかりやすく言えば,被覆アーク溶接棒の被覆剤や半自動溶接ワイヤフラックスなどが,アーク熱によって溶けてできたカスが溶接スラグ。
溶接した後はスラグでビードが守られており,カンカンと叩いて割る行為を「スラグ落とし」又は「スラグ除去」と言う。
スラグ除去は,別名「開封の儀」とも言いますね。
言わない。
溶接スラグの役割は?
「カス」とか「邪魔な物」のイメージがあるスラグだが,溶接には欠かせない役割が3つある。
- 脱酸,脱硫反応によって、溶融池から不純物を除去する。
- 溶融している金属を均一な力で押さえることにより,ビード幅や波を美しく整える。
- 凝固直後の溶接金属を大気から保護し,酸化や窒化を防止する。
要するに,スラグがないと良い溶接ができないんですね!
邪魔だけど必要…まるで嫁…みたいな存在だね!
スラグ巻き込みとは?
スラグ巻き込みは溶接欠陥(融合不良)。
JIS用語では,「溶接金属に巻き込まれたスラグ」と定義されている。
溶接金属で満たされているはずの箇所にスラグがあれば「スラグ巻き込み」となる。
40人学級の中に一匹「猿」が混じってる感じですね!
溶け込んでいないと言う意味ではそうだね!
スラグ巻き込みの原因と対策【現役溶接工目線】
スラグ巻き込みの原因
(社)日本溶接協会/溶接情報センターによると,
- 狭開先溶接部
- 横向溶接での上側開先面
- レ型開先の立板側開先面
- 肉盛溶接部
が「スラグ巻き込み」を発生しやすいとある…が!
現場溶接では,上記のような箇所は多々ある。
しかし,ベテランの溶接工が「スラグ巻き込み」を発生させることはレア。
ということは「スラグ巻き込み」は溶接技量によるところが大きいってこと。
現役溶接工が思う「スラグ巻き込み」原因は以下の通り。
- 溶接電流が低い
- 棒の角度が悪い
- 清掃が悪い
- アーク長が長い
- 乾燥条件などを守っていない
以上の5つが「スラグ巻き込み」を発生させている。
対策とともに深堀していこう!
スラグ巻き込み対策(防止策)
- 溶接電流を可能な限り上げる
- 溶接棒やトーチの角度を溶融池(プール)の形を見て変える
- スラグ除去を確実に行う
- アーク長は短く保つ
- 乾燥条件など溶接棒の使用法を守る
上記の通り。
深堀していこう。
溶接電流を可能な限り上げる
溶接電流を上げれば上げるほど,アーク(放電)は強くなる。
高電流を利用して,溶融池(プール)に入ってくるスラグを弾き飛ばす。
特に下向き溶接は,スラグがかぶってきて溶融池(プール)が見えなくなる。
溶融池(プール)が確実に目視できるようになるまで,電流を上げることが大切。
また,電流が低いと凸ビードになる。
凸ビードになると,ビードと母材境界部のキワにスラグが残りやすい。
凸ビードにしないためにも,電流は可能な限り上げよう。
溶接棒やトーチの角度を溶融池(プール)の形を見て変える
溶接棒やトーチの角度は,現場では教科書通りにならない。
狭かったり,支障物があったり。
気にするべきは,棒の角度やトーチ角度よりも溶融池(プール)。
※例で言えば,下向き溶接の溶接角度は教科書では70°となっているが,現場では30°〜90°の範囲で溶融池(プール)を見ながら調整する。
溶融池(プール)の形を綺麗に保つことが全て。
溶融池(プール)が綺麗なら,溶接棒やトーチの角度は関係ないとさえ言ってもいいぐらい。
溶融池(プール)の形を保つように,溶接棒の角度やトーチの角度をフレキシブルに変えることが「スラグ巻き込み」を防ぐ。
スラグ除去を確実に行う
基本中の基本として,スラグの除去は確実に行う。
溶接初心者にありがちなのが,早く溶接をやりたくてスラグ除去をイイ加減にして次の層に移ってしまうこと。
ベテラン溶接工ほど,スラグの清掃には時間をかける。
ワイヤブラシ・タガネ・マイナスハンマー・グラインダーなどで,確実にビード上のスラグは除去しよう。
アーク長は短く保つ
この記事でも書いたが→アーク長とは?【溶接で1番大事】短く保つ理由,コツを溶接工が解説。
アーク長は溶接で一番大事。
アーク長が長いと「スラグ巻き込み」も発生させやすい。
アーク長の変化を音でもわかるように訓練することが大事。
大抵,「ボボっボ」という感じのこもった音の溶接は,アーク長が長く「スラグ巻き込み」をしている可能性が高い。
アーク長は短く!は溶接の鉄則。
乾燥条件など溶接棒の使用法を守る
溶接棒の乾燥条件や使用用途を守らないと,被覆剤が設計通りに働かない。
溶接途中で剥がれ落ちたり,思わぬところにアーク放電したり。
スラグ巻き込みにつながりやすい。
溶接棒を使う前にメーカーカタログで確認したり,ベテラン溶接工に使用上の注意点やノウハウがないか確認しよう。
意外と見落としていることがあり「ハッ」とするはずだ。
Tig溶接でもスラグは発生する
スラグというと「被覆アーク溶接」や「半自動溶接」と思いがちだが,Tig溶接でもスラグは発生する。
1crや2crの低合金鋼溶接棒を使うとよくわかる。
溶接棒内の不純物が出てきて,スラグ巻き込みになりやすい。
大抵の場合,ビード表面にスラグが上がってくるので神経質になる必要はないが,できれば層ごとにワイヤブラシなどで表面を磨いてスラグ除去し次の層に移るようにしよう。
低い電流で溶接棒を送りすぎたり,大きいスラグを放置したりするとレントゲン検査(RT)に引っかかる場合があるので注意!
Tig溶接でスラグ巻き込みした材料を曲げてみた
レントゲン検査(RT)で引っかかった部位を切り出し,曲げてみたらどうなるかやってみた。
結果はご覧通り。
融合不良になっており,見事に割れ発生…。
ちょっとしたスラグも溶接には大敵となるので,細心の注意を払って溶接しよう。
【スラグ巻き込みの原因と対策】:まとめ
スラグとは「溶接のカス」であり,
役割は「不純物を除去」・「ビードを美しく整える」・「酸化や窒化を防止」する。
スラグ巻き込みとは,「融合不良」になる溶接欠陥。
スラグ巻き込みの対策
- 溶接電流を可能な限り上げる
- 溶接棒やトーチの角度を溶融池(プール)の形を見て変える
- スラグ除去を確実に行う
- アーク長は短く保つ
- 乾燥条件など溶接棒の使用法を守る
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