配管の記号はややこしい
初心者溶接工が必ずつまずくのが配管の記号。
溶接が仕事なのに配管の記号でつまずいてやる気をなくし,溶接業務に支障が出てしまう。
【配管の基礎知識】シリーズはそんな初心者溶接工のために始めたシリーズ。
今回で5回目となる。
ステンレス配管のTP-AとTP-Sの違い,STPG370「SとE」の違い,スケジュールとは?,SUS304とSUS304Lの違いを知りたい方は過去記事を読んでほしい。
配管の種類や記号は多種類あり一気に覚えるのはかなり困難だが,一つの種類を深く知ることによって応用がきくこともあるので初心者溶接工の内は,焦らず確実に理解していって欲しい。
【配管の基礎知識】SUS(ステンレス)配管TP-SとTP-Aの違い,英語の意味,使い分け(メリット・デメリット)とは?
【配管の基礎知識】STPG370「SとE」の違い,英語の意味,370とは?,使用範囲(温度,圧力)
では,SUS304とSUS316の違いについて解説していこう。
SUS304とSUS316の違いとは?
SUS316はSUS304にモリブデン(Mo)を2%〜3%添加することでSUS304に比べて,さらに耐食性(腐食(錆び)にくい、酸化し難いこと)を向上させている材料。
SUS304よりもモリブデン添加により耐食性が向上している材料
含有成分 | ||||||||
C | Si | Mn | P | S | Ni | Cr | Mo | |
SUS304 | 0.08以下 | 1.00以下 | 2.00以下 | 0.045以下 | 0.030以下 | 8.00〜10.50 | 18.00〜20.00 | ー |
SUS316 | 0.08以下 | 1.00以下 | 2.00以下 | 0.045以下 | 0.030以下 | 10.00〜14.00 | 16.00〜18.00 | 2.00〜3.00 |
SUS316L | 0.030以下 | 1.00以下 | 2.00以下 | 0.045以下 | 0.030以下 | 12.00〜15.00 | 16.00〜18.00 | 2.00〜3.00 |
数字の末尾(例304Lなど)にLがついているSUS(ステンレス)鋼はLグレードとか極低炭素鋼と呼ばれ、Lがついていない種類よりも溶接時や加熱時のクロム濃度低下によって耐食性低下となる「鋭敏化」と呼ばれる現象が起きにくいSUS(ステンレス)鋼。
表の記号
C・・・Carbon(炭素)
Si・・・Silicon(ケイ素)
Mn・・・Manganese(マンガン)
P・・・Phosphorus(リン)
S・・・Sulfur(硫黄)
Ni・・・Nickel(ニッケル)
Cr・・・Chromium(クローム)
Mo・・・Molybdenum(モリブデン)
モリブデンを添加すると,なぜ耐食性が向上するのか?
それは,ステンレスは、Cr(クロム)が空気中の酸素と結合(=酸化)し、100万分の3mm程度の非常に薄い不動態皮膜(保護皮膜)を材料表面に形成する。
不動態被膜は化学変化しにくく鉄が酸素と結合しようとする(=錆びる)のを防いでくれる。
不動態被膜は傷が付くなどして破れることがあるが、瞬時に自己修復し鉄が錆びる隙を与えないためSUS(ステンレス)は錆びにくい。
不働態皮膜を形成する主な成分は、Cr(クロム)とMo(モリブデン)。
Cr(クロム)とMo(モリブデン)濃度が高いほど、不働態皮膜がち密で耐食性が良好とされている。
Mo(モリブデン)濃度の不働態皮膜の耐食性を向上させる効果は、Cr(クロム)濃度のおよそ3倍とも言われている。
Mo(モリブデン)を添加することによって不動態皮膜がち密になるから。
SUS316のデメリット
耐食性が向上すればいいことばかりに思えるがデメリットも存在する。
・塩酸,硫酸,硝酸などでは、 SUS304とSUS316の耐食性が逆転する場合もある。
・価格が高い
耐食性がいいからといってどんな流体や液体に適用できるかと言えば違うので,しっかりと使用材料は選定する必要がある。
価格もSUS304に対してかなり割高(2倍程度)なので,工事量と重要度を見極めて材料を選定してほしい。
SUS304とSUS316の溶接棒は?
・ティグ溶接の場合 TG-S316(神戸製鋼)
・アーク溶接の場合 NC-36(神戸製鋼)
配管を溶接する前に,配管の材質を確認するのは溶接工として当然の行為。
溶接棒を選定するために配管の材質は欠かせない。
SUS304とSUS316の見分け方
残念ながら外観だけではわからない。
フランジの刻印を探すか配管のテンプレを探すしか方法がない。
モリブデンチェッカーでモリブデンが含有しているかどうかで判別するのがいいだろう。
SUS(ステンレス)の規格
SUS(ステンレス)の規格は日本工業規格(JIS)に定められている。
SUS(ステンレス)の規格をもっと詳しく知りたければ,下記リンクより印刷や購入はできないが閲覧だけなら無料で確認することができる。
JISは国家規格だが、この他にステンレス協会が制定した団体規格(SAS:Stainless Association Standard)が広く使用されている。
他にもアメリカのASTM規格、ヨーロッパのEN規格、世界共通規格のISO規格がある。
SUS304とSUS316の種類はオーステナイト系
オーステナイト系とは,いくつかあるSUS(ステンレス)の種類で304,316共にオーステナイト系となる。
オーステナイト代表が18クロムー8ニッケルのSUS304。
延性および靭性(じんせい)に富み、曲げ加工,切削加工などの冷間加工性が良好で溶接性,耐食性も優れ、低温、高温における性質も優れている。
製造量は全SUS(ステンレス)生産量の60%を越えるほど。
SUS(ステンレス)といえば304といっていいだろう。
【豆知識】SUS(ステンレス)も錆びる!?
SUS304とSUS316の違いとはあんまり関係ないが,豆知識も知っておくと話の幅が広がり溶接工としてもコミュニュケーションが取りやすい。
なので気が向いたときにでも読んでほしい。
ステンレス(SUS)とは”stain less steel”のことで,stein(汚れ)、less(無い)の造語と”steel”=「鋼鉄」を合わせてステンレスという。
汚れない=錆びにくい
「錆びにくい鋼鉄ですよ」という意味。
錆びにくいというだけでSUS(ステンレス)も錆びることがある。
SUS(ステンレス)が錆びにくい理由としては,
ステンレスは、Cr(クロム)が空気中の酸素と結合(=酸化)し、100万分の3mm程度の非常に薄い不動態皮膜(保護皮膜)を材料表面に形成する。
不動態被膜は化学変化しにくく鉄が酸素と結合しようとする(=錆びる)のを防いでくれる。
不動態被膜は傷が付くなどして破れることがあるが、瞬時に自己修復し鉄が錆びる隙を与えないためSUS(ステンレス)は錆びにくい。
なのでこの不動態皮膜を壊してやればSUS(ステンレス)も錆びることになる。
具体的には
・もらい錆び(異種金属との接触)
・化学薬品に触れさせる
・大きなすり傷や打痕傷
など。
SUS(ステンレス)=錆びないではなく条件次第では錆びることもあることを理解しておこう!
まとめ
SUS304とSUS316の違いはモリブデンが添加されているか,いないか。モリブデンを添加すると耐食性が向上する。
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