【当て板(パッチ当て)溶接】の注意点を現役溶接工が解説【軽視するな】
当て板(パッチ当て)溶接って何ですか??
注意点とかあるの?
詳しく教えて欲しい。
軽視されがちだけど意外と奥深いよ。
詳しく解説するね!
本記事の内容は以下の通り
・【当て板(パッチ当て)溶接】の注意点【8つある】
この記事を書いている俺は「溶接歴25年」の熟練溶接工。
保有資格は,JIS溶接技能者(TN-P,T-1P,N-2P,C-2P),溶接管理技術者2級,管施工管理技士1級。
要するに,ベテラン溶接工で溶接の専門家。
本記事は,軽視されがちな【当て板(パッチ当て)溶接】の注意点を溶接歴25年の経験からまとめた記事。溶接初心者には参考になると思うので最後まで読んで欲しい。
当て板(パッチ当て)溶接とは?
当て板(パッチ当て)溶接とは・・・腐食や摩耗した箇所に新たに板を当て,溶接で補強すること
現場では,『穴ふさぎ板や補強板』のことを,ざっくり当て板(パッチ当て)溶接と言っている。
ちなみに,パッチ当てのパッチ(Patch)とは英語で,パソコン用語。
パッチ(Patch)・・・コンピュータにおいてプログラムの一部分を更新してバグ修正や機能変更を行うためのデータのこと
実際の現場作業での「当て板」や「パッチ当て」の使い方は,
腐食で穴空いてるから,パッチ当ててこい!
とか
明日使う,当て板切っとけよ!
などと使われる。
【当て板(パッチ当て)溶接】の注意点【8つある】
先日,【当て板(パッチ当て)溶接】の注意点について,下記のようなツイートをした。
【当て板(パッチ当て)溶接の注意点】
1.ケレン方法(1,2,3種)の選択
2.板を密着させる
3.材質を合わせる
4.板厚の選定
5.ガス抜き穴を作る
6.長尺物は溶接栓を設ける
7.火事になりやすい
8.板で手を潰しやすい軽視されがちな作業ですが,気を抜かず施工しましょう😎
— Mac好きな溶接工@職人の概念をぶっ壊す! (@kaisyabaibai) March 19, 2021
- ケレン方法(1,2,3種)の選択
- 板を密着させる
- 材質を合わせる
- 板厚の選定
- ガス抜き穴を作る
- 長尺物は溶接栓を設ける
- 火事になりやすい
- 板で手を潰しやすい
上記を深堀していこう。
1.ケレン方法(1,2,3種)の選択
ケレンとは・・・素地調整のことで,当て板(パッチ当て)溶接する側の下地処理のこと
要するに,『磨き』や『サビ落とし』のこと。
ケレンには1,2,3種あり,大まかな分類は下記の通り。
詳細なケレン分類を知りたい方はコチラ→「ケレン・素地調整の種類「1種・2種・3種・4種ケレン」の概要、違い」
1種・・・サンドブラスト
2種・・・グラインダーなどの電動工具
3種・・・ワイヤブラシ,ケレンハンマーなどの手工具
当て板(パッチ当て)する面をどのように下地処理しておくか?で溶接のやりやすさが全然違う。
それぞれにメリット・デメリットがあるので用途に合わせて選定する必要がある。
超ざっくりとメリット・デメリットを説明するね!
メリット・・・サビや塗膜などが完全に除去されるため,溶接が超やりやすい
デメリット・・・専門業者が必要,施工時間がかかる,お金がかかる
メリット・・・誰でもできる,施工時間も早い,サビなどもある程度除去される
デメリット・・・サビや塗膜が若干残る,溶接が若干やりづらい
メリット・・・施工時間が早い,簡単
デメリット・・・素地調整としては雑すぎて,溶接や当て板がやりづらい
実際の現場では,2種ケレン(電動工具が狭くて入らない所は3種)が圧倒的に頻度は多い。
よほどの大工事でない限り,1種のような綺麗な下地に当て板することはない…と思う。
2.板を密着させる
当て板(パッチ当て)する時は,板を母材と密着させること。
理由は,
・溶接がやりやすい(施工時間の短縮)
・流れがある箇所では,乱流の原因になる
・当て板(パッチ当て)と元板の隙間の空気が酸化(サビ)の原因になる
・見た目が良い
上記のような理由から,当て板(パッチ)は母材と密着させること。
ガムテープ貼る時と同じだよ!
・テープが浮いていないか?
・密着してるか?
確認するよね。
当て板(パッチ)も同じだよ。
3.材質を合わせる
当て板(パッチ)をする時は,材質もなるべく母材と同材を当てた方がいい。
ただ「穴を塞ぐだけ」とか「摩耗する箇所に補強する」のであれば材質にはさほど注意する必要はないが,配管や圧力容器など高圧力や高温度な箇所に当て板する場合は注意が必要。
理由は,
・材質によって伸び量や強度が違う
・異材溶接部は割れやすい
から。
例えば,母材がSS400の箇所にSUS304を当て板(パッチ当て)すると,そこだけ伸び量や強度が変わるし溶接も割れやすい。
高圧力・高温度では材料変化が読めないことも多いので,母材と同材を当てるようにしよう。
服の穴空いた箇所にガムテープ貼ったら突っ張るよね??
それと同じだよ!
なるべく同材がおすすめ。
4.板厚の選定
板厚はなんでもいいわけではない。
板厚を決めるには,次のことに注意する必要がある。
・重さ(当て板(パッチ)後の総重量)
・断面積の増減
・耐摩耗性
・耐腐食性
・ハンドリング(取り回し)
・溶接性
上記のことを考えながら決めていこう。
厚ければいい,薄ければいいだけじゃなく,トータルで決めることが大事。
現場でよくあるのが,
・母材6mmの所,摩耗がひどいので12mmの当て板(パッチ)をした→総重量が重くなり架台が歪んだ→架台補強するハメに…
・母材2.0mmの所に1mmの当て板(パッチ)をした→溶接性が悪く工期がかかった…
などの例。
軽視されがちな板厚も,しっかり根拠を持って選びたい。
5.ガス抜き穴を作る
ガス抜き穴とは,当て板(パッチ当て)溶接を『全周溶接』する際に設ける穴のこと。
溶接で熱せられ膨張した空気をガス抜き穴から逃がし,溶接不良を防ぐ役割がある。
ガス抜き穴がないと,全周溶接する際当て板(パッチ)を溶接していくと,最後のつながる部分で内部の空気の逃げ場がなくなり溶接部から吹き出す。
削って何回やってもダメで最後だけつながらない。
それを防ぐための『ガス抜き穴』を設けること。
しかし,当て板(パッチ)が完全密着していない,空気の逃げ場が他にある場合はガス抜き穴は必要ない。
水筒に容量以上の水を入れようと思っても,絶対に入らないってことですね!
6.長尺物は溶接栓を設ける
当て板(パッチ)が長くなればなるほど,母材と密着させることが難しい。
そこで溶接栓の出番。
溶接栓とは,当て板(パッチ)に穴を開けておき,その穴を利用して母材と当て板(パッチ)を溶接することで密着度を上げる方法。
密着度を上げる理由は,前述した通り。
二分割にすればいいじゃないか!と思うかもしれないが,溶接量が増える,物量が増える,合わせるのに手間取る…などいいことがないので二分割はおすすめしない。
ちなみに,溶接栓を設ける基準は200mm×200mmを超える当て板(パッチ)の場合した方が良いとされている。
※腐食にて当て板(パッチ当て)する場合,溶接栓を施工する箇所の母材が残っていない場合があるため事前に現場の確認が必要。
7.火事になりやすい
当て板(パッチ当て)溶接は,火事になりやすい。
なぜかというと,裏側(当て板(パッチ当て)部の反対側)が見えないから。
当て板(パッチ)の反対側は盲点になりやすい。
事実,現場では,
・ケーブルの焼損
・枯れ草に引火
・スプレー缶爆発
の事件に遭遇した。
・監視人の配置
・燃えやすいものを置かない
・消火器・水バケツの設置
軽視されがちな,当て板(パッチ当て)溶接は,気も緩みやすい。
当て板(パッチ)する前・中間・後には必ず火の粉を確認し,火事を起こさないようにしよう。
8.板で手を潰しやすい
当て板(パッチ)は手を潰しやすい。
・母材に押し付ける時
・内作加工の時
・運ぶ時
仕事が下手な奴ほど当て板(パッチ当て)作業で,手を潰す。
・皮手の着用
・エッジ部にガムテープする
・持ち手を溶接しておく
・二人で声かけしあう
めんどくさそうだが,意外と安心して作業できるため効率がいい。
俺が溶接工として勤務した25年間,当て板(パッチ当て)作業で同僚の指は5本程度なくなっている…。多いとみるか少ないとみるかは貴方次第だが…。
【当て板(パッチ当て)溶接】の注意点:まとめ
【当て板(パッチ当て)溶接】の注意点
- ケレン方法(1,2,3種)の選択
- 板を密着させる
- 材質を合わせる
- 板厚の選定
- ガス抜き穴を作る
- 長尺物は溶接栓を設ける
- 火事になりやすい
- 板で手を潰しやすい
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