Tig溶接の適正電流値はわかりづらい。
特に10t以上の厚肉をやるときは適正電流値がわかりづらい。
電流をどれだけ上げても穴は開かないし,ビードもあまり変わらない。
電流を上げれるだけ上げるのが溶接工のセオリーだが,無駄に上げすぎるとトーチの焼損や溶接機の使用率を超えてしまい効率が悪い。
被覆アーク溶接と違ってわかりづらいTig溶接の電流はどうやって決めるのか?
今回は電流値の決め方を記事にしたい。
Tig溶接電流値 ①溶融池(プール)の大きさ・形で決める
電流値が高い時と低い時の溶融池(プール)の大きさ・形で決める方法。
溶融池(プール)が小さいと溶接棒が入れづらくビードが細い。
溶融池(プール)が大きいと溶接棒はよく溶けビードが太くなる。
※溶接速度・トーチ角度は一定で捨て板で練習するのがいい
溶融池(プール)の大きさ=ビードの太さになるので仕上がりビードをみてビード幅で決める。
このときウィービングはせずにストリンガービードで確認する。
真っ直ぐ走ってビード幅の確認。
狙いより太ければ電流値を下げ狙いより細ければ電流値を上げる。
一番単純で一番わかりやすいやり方。
捨て板で各電流値のプールの大きさをイメージできるまで溶接してみるとイメージがつけやすいはず。
観察力が大事。
Tig溶接電流値 ②溶接対象物の厚みで決める
溶接する対象物の厚みであらかじめ設定した電流で決める方法。
厚みと電流値の目安表
厚み | 電流値 |
1t | 25A〜60A |
2t | 30A〜70A |
3t | 60A〜100A |
4t | 60A〜120A |
5t | 60A〜130A |
6t | 80A〜130A |
7t | 100A〜140A |
8t | 120A〜160A |
9t | 120A〜170A |
10t | 130A〜190A |
10tまでの基本電流を書いてみた。
電流がわからないときはこの表を見てとりあえずの設定をしてみる。
でビードを見て電流値を判断する。
電流値に幅があるので真ん中ぐらいの電流値で試してみるのもアリ。
目安に使ってほしい。
電流値を厚みで覚えておくのは便利。
厚みが決まっているJIS試験などは電流値を決めやすい。
この厚みだったらこのぐらいって感覚を身につけよう!
Tig溶接電流値 ③溶接後検査で決める
溶接後に検査があるかどうか?
あるとしたらどんな検査方法か?
検査方法によって電流値を調整する方法。
電流値によってビードは変わる。
電流値が高ければビードは凸ビードになりやすいし,電流値が低ければビードは凹ビードになりやすい。
ビード表面に凸ビードがあれば表面検査はやりづらいし,ビード内面に凹ビードがあれば内面検査時に溶け込み不良が起きやすい。
検査方法によって電流値を変えるのは現場では当たり前。
外観目視検査(VT)
目で見て異常がないか検査すること。
見た目が大事なので電流値は最終層で10A程度下げる。
低い電流値で溶接速度を下げビードを整えることを重視。
浸透探傷検査(PT)
赤色や蛍光の浸透性のよい検査液を用いて、表面の割れやキズ、ブローホールなどを検出する非破壊検査方法
表面欠陥を検出する検査なので,電流値は最終層は下げる。
外観目視検査と同じ考え。
ビードの凸凹をなるべく無くし滑らかさ重視。
磁粉探傷検査(MT)
目視では発見が困難な微細な傷を磁粉(磁力)により拡大し検出可能にする検査方法
PT検査と同じく最終層は電流値を下げる。
表面の凸凹を無くし滑らかに仕上げ重視。
放射線検査(RT)
物体に放射線を照射すると、放射線は物体との相互作用(吸収、散乱)によりはじめの強さより弱くなり透過する。
物体の中に空洞などが存在すると健全部との密度の違いにより透過する放射線の量が違ってくる。その違いをフィルムなどに濃淡として写し出す検査。
放射線で内部欠陥を検出するため電流値は上げる。
出来る範囲内で電流値を高くする。
溶け込み重視。
超音波探傷検査(UT)
パルス発信機、探触子、受信機、表示部で構成される機器を用いて検査を行う。
探触子は試験体表面に超音波を発信したり受信したりするもので、物体内部に伝搬した超音波は、試験体に傷がなければ底面で反射して戻ってきた超音波(エコーと呼ばれる)を受信するが、内部に傷や異物があると、そこで反射したエコーが検出される。
RT検査同様,内部欠陥を検出する。
電流値は上げる。
溶け込み重視。
検査の難易度はVT→PT→MT→RT→UT。
溶け込み不良がすぐに分かるUTは個人的に一番嫌い。
電流を上げ確実に溶かすことを心がける!
Tig溶接電流値 ④溶接棒の太さで決める 2020.1.15追記
溶接棒によっても電流値を決めておくと作業が捗る。
1.2mm | 30〜80A |
1.6mm | 50〜90A |
2.0mm | 60〜100A |
2.4mm | 80〜150A |
3.2mm | 130A〜 |
俺の個人的な溶接棒と電流値の関係。
この溶接棒使うなら電流値はこの範囲だろっ!てのを決めておくと溶接棒も決めやすいし,電流値も決めやすい。
溶接棒を送らないで置いたままにし自然と溶けていくぐらいが適正電流だと思っていい。
余盛りの膨らみ方が溶接棒によって違うのでビードの両キワが馴染む感じに調整してほしい。
Tig溶接電流値を掴むには薄板(3t)を溶接しろ!
上記で上げた4つの方法(プールの大きさ,材料の厚み,溶接後検査,溶接棒の太さ)でも溶接電流がピンとこないことはよくある。
なんか違うんだよなーー。
もっとビードを光らせたい!
など向上心があり,自分の溶接ビードに満足感がない場合。
そんな時は,薄板(3t)程度で下向き溶接をひたすら練習すること。
JIS溶接試験で言えばT-1Fの練習。
薄板(3t)は電流に敏感で,適正電流・溶接速度・溶接棒の送り方などTig溶接の基本が全て詰まっている。
薄板は電流上げればすぐにアンダカットが入るし,裏波もツララみたいになりやすい。
かといって溶接の電流下げればオーバーラップが発生する。
薄板が綺麗に溶接できれば,Tigの電流で悩むことはなくなるはず。
Tig溶接電流の決め方 まとめ
Tig溶接の適正電流値はわかりづらい。
基本となる考え方は一つ!!
・電流はできるだけ上げる!
例えば150Aか170Aか迷った場合。
通常に溶接ができ,ビード状態もいいなら170Aを選択。
その中で電流値を調整したくなれば目安になる考え方は4つ
・溶融池(プール)の大きさ=ビードの幅
・材料の厚み
・溶接後検査方法
・溶接棒の太さ
で考えてほしい。
溶接を長く続けていると経験で電流値はわかる。
しかし,初心者の頃はどうやって電流値を決めているのかわからない。
上記で上げた方法を一度試してみて欲しい。
このブログの記事が参考になれば嬉しいし,幸せだ。
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